訪問看護ステーションの需要は高まっています。
少子高齢化が進む日本では、地域全体で高齢者を支えていく仕組みが求められています。
看護師・療法士などの医療従事者が、住み慣れた自宅などを直接訪問し、24時間体制で看護ケアを提供する訪問看護ステーションは、まさに今の日本で欠かせない成長性の高い事業と言えます。
開業する前に知っておきたいポイント
『訪問看護師』は怪我の手当、お食事のサポート、点滴、酸素や人工呼吸器などの医療処置を、ご利用者の主治医に訪問看護計画書を提出して医師の指示のもとに行います。
訪問看護事業は特別養護老人ホームやデイサービスのように大掛かりな設備や広いスペースを必要としない為、建設費や施工費がかからず 、初期投資が少なくて済みます。
場合によっては既存の事業所の一角を訪問看護事業所として開業することも可能です。
開業する手順 ―――――――――――
大きな流れは以下の様になります。
①法人を設立
―――まず法人登記を行います。
事業所の定款『事業目的欄』には「介護保険法に基づく訪問看護事業」を入れる必要があります。
既に法人がある場合は、上述の事業目的を追記して登記変更を行います。
②事務所設立
―――契約者は必ず法人名で、また使用目的は「事業所」として契約します。
広さに規定はありませんが、看護師さん等スタッフの集まる場所や相談室などは、プライバシー保護に配慮して、パーテーションで仕切るなどする必要があります。
③人員確保
―――人員基準にある看護師さん、准看護師さんなどスタッフを雇います。
雇用契約書を取り交わし、看護師資格証の提示も必要になります。
④備品の準備
―――事務所内部の写真が指定申請時に必要となります。
事務用のデスク・イス、相談室のデスク・イス、パソコン、プリンター、電話・FAX、鍵のかかる棚、手洗い場、石鹸・消毒液、パーテーションなどを申請までに用意します。
⑤申請書の準備
―――都道府県等から指定を受ける為、各種申請書を提出し、申請を受ける必要があります。
・指定申請書
・訪問看護・介護予防訪問看護事業所の指定にかかわる記載事項
・定款のコピー(原本証明が必要です)
・登記事項証明書
・従業者の勤務体制および勤務体制一覧表
・役員名簿
・欠格事由に該当していない旨の誓約書
・組織体系図
・管理者の資格証のコピー
・訪問看護員の資格証のコピー
・事業所の写真(外観・内観)
・事業所の平面図
・事業所の案内地図
・事業所が賃貸である場合はその賃貸借契約書のコピー
・運営規程
・資産の状況を証明する書類
・ご利用者の苦情処理を講ずる措置の概要
・損害保険加入を証明する書類
・介護保険給付に係る体制等の状況一覧表
など
⑥申請書の提出
―――申請から承認まで、通常半月から1ヵ月ほどかかります。
申請の期日や提出場所は都道府県によって異なりますので、事前に各自治体に確認しましょう。
⑦指定を受け事業開始
事業所の開設要件 ―――――――――
訪問看護事業所の開設には以下の要件を満たしている必要があります。
訪問看護の開設要件
・法人であり、定款の目的欄に当該事業に関して記載があること
・指定基準(人員基準・設備基準・運営基準)を満たしていること
人員基準
・病院または診療所以外の指定訪問看護事業所の場合
『看護職員(看護師または准看護師、保健師)』:常勤換算で2.5人以上
『理学療法士、作業療法士、または言語聴覚士』:指定訪問看護ステーションの実情に応じた適当数
『管理者』:常勤である保健師または看護師
・病院または診療所である指定訪問看護事業所
『看護職員』:相当数、ただし1名は常勤とする
設備基準
・病院または診療所以外の指定訪問看護事業所の場合
『事務室』:運営を行うに足る専用の事務室(ただし、同一敷地内に他の事業所、施設等がある場合は事業の運営を行うに必要な広さを有する専用の区画でも可)
『設備および備品等』:指定訪問看護の提供に必要な設備および備品等
・病院または診療所である指定訪問看護事業所
『区画』:事業運営を行うための必要な広さを有する専ら指定訪問看護の事業の用に供する区画
『設備および備品』:必要な設備および備品等
運営基準
・内容・手続きの説明及び同意
訪問看護提供に際し、ご利用者及びご家族に対して運営規程や重要事項説明書の説明をし、同意を得る必要があります。
・受給資格の確認
健康保険被保険者証・介護保険被保険者証を確認
・居宅介護支援事業所との連携
他の保険医療・福祉サービスを提供する事業者と連携して、ご利用者の心身の状況を把握します。
・指定訪問看護の基本取扱方針および具体的取扱い方針
医師の指示に従った指定訪問看護が行われるよう、在宅療養の助言や指導を行い、適切な看護技術でご利用者の心身の向上を図ります。
・主治医との連携
主治医と密接に連携し、主治医へ訪問看護計画書と訪問看護報告書を提出します。
・訪問看護計画書と訪問看護報告書の作成
訪問看護計画書にはご利用者の心身の状況、主治医の指示などを踏まえ、看護目標や具体的なサービス内容を記載します。
開業するときの資金について ――――
訪問看護事業は設備投資費用がかからない反面、人件費がかさむ傾向があります。
また、現在、介護業界は人手が集まりにくく、人員確保のための求人広告費等もかかります。
特に、訪問看護は看護職員(常勤換算2.5人以上)が必要となる為、人員確保のハードルが高くなっています。
上記の点に注意して、収支計画を立てる必要があります。
①会社設立費用
法務局へ登記が必要となります。
・株式会社の場合
定款認証手数料
(5万円)
+謄本交付手数料
(1枚250円で枚数分、約2千円)
収入印紙代
(4万円)
設立登記にかかる費用
(15万円 ただし資本金の7/1000が15万円を超えた場合はその額)
合計25万円~
・合同会社の場合
登録免許税
(6万円、ただし資本金の7/1000が6万円を超えた場合はその額)
収入印紙代
(4万円)
合計10万円~
・NPO法人の場合
非課税なので0円
但し所轄庁の認証を得る必要があります。
②物件取得費
新規事務所を構えるため、賃貸料・敷金、礼金、管理費などが必要となります。
広さの基準はないが、スタッフの集まる場所や相談室、トイレ、手洗い場などがある事務所が必要です。
約70万円程度(賃料を10万円とした場合)
③備品等
スタッフ用・相談室用などの机や椅子、電話・FAX、パソコン、プリンター、鍵付きの棚、消毒液、自動車、看護業務に必要な血圧計、体温計、ガーゼ等消耗品が必要です。
約100万円程度を想定
④人件費
看護師、准看護師、保健師を常勤換算で2.5人以上
そのうち一人は常勤職員を雇う必要があります。
管理者を常勤の看護師とした場合、最低2人の看護職員
訪問看護事業の内容によって、理学療養士や作業療法士などの職員も雇用する必要があります。
管理者:約40万円
准看護師:約30万円
非常勤:約15万円
⑤ 求人広告・宣伝費
看護師を採用するための募集広告を出す費用
その他パンフレット、リーフレット、webサイト立ち上げなど、訪問看護事業所の宣伝費が必要
約50万円
⑥指定申請手数料
新規に事業を始める場合の申請手数料は、3万円程度
(各都道府県・自治体によって異なる為、詳しくは、各都道府県・自治体のサイトを確認してください。)
開業資金を調達するには ――――――
① 公的な融資
日本政策金融公庫
1.新創業制度
2.新規開業資金
3.女性、若者・シニア起業家資金
②銀行からの融資
しっかりした事業計画書を提出し、見通しを説明することで融資を受けやすくなります。
③補助金、助成金
助成金は会社設立前や従業員雇用前に申請手続きが必要な場合があります。
特定の要件に適合する人材の雇い入れ時など人材に関するものや、福祉機器の購入時などに受けられる助成金などがあるので、事前に自治体や労働局などに確認しましょう。
開業時の注意 ―――――――――――
① 看護師不足
現在、日本では深刻な看護師不足が問題となっています。
訪問看護ステーションを開設したくても、人員基準を満たすことが出来ず、休止せざるを得ない事案が多く見受けられます。
また、看護師の雇用には介護職員と比べてどうしても人件費が高くなるため、経営には人件費確保の為の資金繰りをする必要があります。
②3ヶ月の運転資金が必要
訪問看護事業の収入は介護報酬となります。
この報酬は、開設した月の翌月10日に国民健康保険団体連合会に請求、翌々月の25日に支給されます。
そのため、諸経費は発生しますが、3ヵ月間は無収入となることを念頭に、その間の運転資金を準備しておく必要があります。
③介護保険法の減額改正
介護保険法はたびたび改正され、介護報酬が減額になることがあります。
見込まれていた収益が得られず、赤字経営に陥ることも少なくありません。
競合地域でステーションを運営する場合は、24時間対応ではなく24時間365日の対応にする等の工夫が必要です。