生活ケアとは
訪問看護サービス利用者の方が快適な療養生活を送れるようにサポートをする「生活ケア」では、食事、排泄、身体の清潔、服薬管理、住環境の整備などの指導・介助を行います。
今回はそれぞれのケアについて詳しくご説明します。
食事のケア
生活において食事の時間はとても大切です。
身体機能が低下して上手に食べることが難しくなってきたという利用者の方にも、出来るだけ食べる楽しみを持てるようなケアを行いましょう。
・食事状況のアセスメント
どのような環境で何をどれくらい食べているか、ご家族の食事介助はどうか、接触嚥下機能が低下していないかなどをチェックします。
(摂食嚥下機能:食べ物を認識→口に取り込み→咀嚼→咽・食道を経て胃へ送るまでの一連の機能のこと)
摂食嚥下機能の評価は場合によっては、医師や歯科衛生士、言語聴覚士に診てもらいましょう。
また、厚生労働省が公表している「口腔機能自己チェックシート」を使い、ご家族でも口内の健康度を診ることができ、利用者本人やご家族の意識付けをすることもできます。
①固いものが食べにくいですか
(1.はい/2.いいえ)
②お茶や汁物等でむせることがありますか
(1.はい/2.いいえ)
③口がかわきやすいですか
(1.はい/2.いいえ)
④薬が飲み込みにくくなりましたか
(1.はい/2.いいえ)
⑤話すときに舌がひっかかりますか
(1.はい/2.いいえ)
⑥口臭が気になりますか
(1.はい/2.いいえ)
⑦食事にかかる時間は長くなりましたか
(1.はい/2.いいえ)
⑧薄味がわかりにくくなりましたか
(1.はい/2.いいえ)
⑨食べこぼしがありますか
(1.はい/2.いいえ)
⑩食後に口の中に食べ物が残りやすいですか
(1.はい/2.いいえ)
⑪自分の歯または入れ歯で左右の奥歯をしっかりとかみしめられますか
(1a.どちらもできない/ 1b.片方だけできる/2.両方できる)
・食事環境
食事をとる環境で、食欲も変わってきます。
座ることができる方は、寝室ではなく食卓に着いて食事するほうが生活にメリハリが出ます。
食事中は正しい姿勢をとることも重要です。
悪い姿勢で食事をすると、食べ物を口に運ぶ・飲み込むなどが行いにくくなり、誤嚥のリスクが高くなります。
タオルやクッションなどを背中に差し込んで、背骨がまっすぐに、頭部がやや前傾気味に座れるようにしましょう。
また、テーブルの高さなども確認すると良いでしょう。
テレビなどをつけて「ながら食事」をすると、意識が食事から離れてしまうため、食事に集中できる環境を作りましょう。
・調理法の工夫
食事する力が弱い利用者が、通常の食品を食べると誤嚥のリスクがあり、食事する力がある方がとろみ食ばかり食べていると嚥下機能が低下してしまいます。
アセスメントを行い、利用者の嚥下機能にあった調理法で食事をつくるよう提案しましょう。
毎日食事を手造りするのはご家族にとって大変なことです。
市販の介護食品や配食サービスの利用など、ご家族の負担を減らすための提案もすると良いでしょう。
・口腔ケア・マッサージ
口腔ケア用のスポンジブラシと水を使い口内を潤す、唾液腺マッサージを行い唾液の分泌を促すなど、口の中を潤すようにして、食事を飲み込みやすくします。
誤嚥性肺炎の予防にもなります。
唾液腺マッサージ
1. 耳下腺への刺激
人差し指~小指の4本の指を頬にあて、上の奥歯あたりを後ろから前へ向かって回すように10回ほどマッサージします。
2. 顎下腺への刺激
親指を顎の骨の内側の柔らかい部分にあて、耳の下から顎の下まで5ヶ所くらいを順番に5回ずつ押すようにマッサージします。
3. 舌下腺への刺激
両手の親指をそろえて顎の真下から5回ずつ手を突き上げるように押すマッサージを10回ほど行います。
よく笑い、会話の多い方は口周りの筋肉が使われるので、唾液の分泌量が増えて飲み込む力が衰えにくくなります。
コミュニケーションを増やし、よくしゃべることが健康につながるポイントにもなります。
排泄のケア
高齢になるにつれ慢性的な便秘になってしまう人が多く、食事や水分の摂取量が減ることや、筋肉の衰えにより排便機能が弱くなってしまうことなどが原因となります。
適切に排泄ができないと、ストレスを感じイライラしたり、不眠、さらなる食欲低下などを引き起こしてしまいます。
排泄ケアは、
・ 便や尿の状態
・食事や水分量は適切か
・ 生活リズムに乱れがないか
・ 排泄環境
・ 排泄のための動作ができるか
これらの観点でアセスメントを行い、必要に応じて食事や水分量の見直し、マッサージ、浣腸、摘便をします。
排泄は人の尊厳に大きく関わることです。
利用者に配慮し、浣腸や摘便、排泄物の処理の時などは余計な言及などせずに速やかに作業を行いましょう。
スキンケア
高齢になるにつれ体内の水分量が低下し、皮膚のバリア機能が低下してしまい、乾燥、かぶれ、低温やけど、スキンテア、褥瘡などの皮膚トラブルを起こしやすくなります。
・洗浄
清拭や洗髪、入浴などを行い、汗や皮脂を取り除き清潔にしましょう。
高齢者の皮膚は非常に繊細なため、身体を洗ったり拭いたりするだけでも傷がついてしまいますので慎重に行いましょう。
・保湿
皮膚のバリア機能や水分を保持する機能を持っている皮脂が洗浄によって取り除かれてしまうため、保湿剤でしっかりと保湿することが大切です。
・保護
衣服や寝具のしわが皮膚にあたり、圧迫しないよう注意しましょう。
汗や排泄物などから皮膚を保護するにため、クリームやオイルを使用するのも良いでしょう。
身体を清潔に保つことは皮膚トラブルの予防の他に「感染症予防」、関節や筋肉を動かすことによって「拘縮・廃用症候群の予防」、身体がきれいになることによって気分転換や意欲向上など「リラクゼーション」など多くの効果があります。
スキンケアも排泄ケア同様、利用者への配慮を心掛けましょう。
浮腫(むくみ)のケア
浮腫の原因は大きく2種類に分けられ、静脈やリンパ管の異常によって起きる「局所性浮腫」と、全身疾患から起こる「全身性浮腫」になります。
正しい治療やケア方法は原因の疾患により異なりますので、主治医の診断に基づいて処置しましょう。
身体を動かすことが予防になります。
一日中同じ体制でいると水分が溜まり浮腫の原因となってしまいます。
利用者本人やご家族、リハビリ職員などと連携をとって、定期的に離床、簡単な体操を行うなどの習慣がとれるようにしましょう。
移動・移乗のサポート
移動や移乗には転倒のリスクがあります。
高齢者が転倒してしまう要因には身体的な「内的要因」と、環境による「外的要因」に分けられます。
「内的要因」
・加齢による筋力、注意力の低下
・病気などによる後遺症、運動機能障害、認知機能障害
・服薬による副作用
「外的要因」
・住まいのリスク(段差や障害物など)
・衣類のリスク(サイズが合っていないなど)
・福祉用具のリスク(メンテナンスの不十分など)
・介護力のリスク(介助技術不足による転倒など)
日常的な身体介助は、訪問介護員やご家族が中心となって行うため、訪問看護師はアセスメントを通して上述の要因の原因を見極め、転倒リスクなどを減らすための指導を行います。
ですが、指摘が一方的な環境改善とならないよう注意が必要です。
提案した導線が物理的には安全でも、利用者にとっては不慣れで心配のある導線となる可能性もあり、また、突然環境が変わることに心的ストレスを感じることもあります。
利用者やご家族の意向を踏まえ、徐々に改善していけるよう指導を行いましょう。
利用者の身体機能の評価については理学療法士、福祉用具については専門の相談員など、専門職と連携し利用者のADL(日常生活動作)の維持、転倒リスク軽減のサポートを行いましょう。
服薬のサポート
処方されている薬の役割を説明することで、利用者自身が体を守るための服薬意識をつけさせることが大切です。
高齢者の場合は何種類もの薬を処方されるため、それぞれの薬効を知らずに飲んでいたり、薬を飲み忘れていたり、飲み忘れた分をまとめて飲んでしまったりなどのケースがありますが、それを咎めることは逆効果にもなります。
利用者自身、ご家族にも薬を取ることの意味も含め丁寧に説明し理解してもらうようにしましょう。
形状によってのみづらいという理由で、薬が飲めていないということもあるため、利用者の服薬能力や健康状態などを医師に伝えて適切な薬を処方してもらいましょう。
医師やご家族、訪問薬剤師とも連携し利用者の服薬サポートを行って行くことが大切です。